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IGArchitects 一級建築士事務所
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家の躯体
建物は隣地の空地と連なる抜けをつくるように北側の壁をずらし、それに合わせて高さや奥行を変えながら床を渡す構成になっている。ずれた3枚の壁と7枚の床は高さや奥行を変えながら上下が途切れることのないように重なり、近隣との見合いを避けるようにして設けられた開口部から、内部に光や風を呼び込んでくれる。南側に開口部を設けていないことから、厳しい日射が直接内部に入ることは少ない。けれども北側の壁越しに、一日中光が差し込むので、時間や天気、季節の移り変わりを豊かに感じられるようになっている。ずれた床は外部からプライベートな機能を隠すための壁やルーバーのように機能して、建物の奥に行くほど開口部から離れ、キッチンや浴室等、使い方が固定されていて、反対に道路に近づくほど、間口が広がり、開口が大きくなって、外部に近づいていく。決して広くない都内の敷地で、十分な庭やテラスを設けることができない代わりに、大きな開口部を設け、ひとたび開け放てば、まるで家の中が庭やテラスになるように計画している。

床に配された機能は、床の小ささ故に単独で完結することはなく、ずれた他の床にまたがるようにして成り立っている。さっきまで床だった場所が椅子になり、机になり、棚になり、天井になる。明確に使い方を決められた場所はほとんどなく、家の中全てが、ずれた床との関係性の中で居場所をつくっている。玄関を入り、歩を進めるにつれて、ゆっくりとグラデーショナルに空間が変化していく様を感じることができる。単純な構成だが、生活の行為と結びつくと、そこには無限の使い方と広がりが生まれてくる。遺跡のように大きく、力強いRCの躯体の中に、人のスケールに合わせた階段や家具を配することで、人のために設えつつも、その設えたイメージを超える豊かさをつくりだそうとしている。

ずれた壁といろいろな高さに床を渡すだけというシンプルな構成で、床・壁同士が呼応し合い、延床面積60㎡に満たない小さな家だが、数字以上の豊かさや広がりをつくることができた。都心で暮らすリアリティと、小さな敷地に対する一つの可能性としてできたワンルーム。遠くにあるものと近くにあるものが同時にあって、それらが別々である時もあれば、連続する時もある、そんな関係性を形にした躯体が、家になった。
Data

一般住宅設計 | 五十嵐理人

種別 | 新築

構造 | 鉄筋コンクリート

予算 | 3600万

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